9月に茶道でよく使用される「銘」と、お茶とのかかわりの深い行事や暦を勉強して、「銘」に対する理解を深めましょう。
茶杓などの茶道具につけられる銘には気候や植物、年中行事が深く関わっています。
これらは銘だけでなく、道具の取り合わせのヒントにすることができますので、歳時記を知っておくと自分に引き出しが増えると思います。
季節ごとに使われる銘はたくさんありますが、どんな意味の銘なのかという疑問もあると思いますので少し解説を付けています。
銘は茶杓だけではなく、茶入や茶碗さらにはお菓子などにも付いていますので、お茶のお稽古の時の問答の参考にしていただければと思います。
季節の銘ではなく無季のカタい銘が知りたい方は禅語や漢詩関連の銘の記事をどうぞ。
【9月の銘】茶杓などに使われる銘

- 玉兎 ぎょくと、たまうさぎ 月の異名、月の兎のこと
- 団子 だんご
- 望月 もちづき 満月、陰暦十五夜の月
- 小望月 こもちづき 陰暦十四日の夜の月
- 待宵 まつよい 陰暦八月一四日の宵
- 幾望 きぼう 陰暦13日、14日の夜やその月
- 望 ぼう 陰暦15日の夜、満月。もち
- 十五夜 じゅうごや 陰暦(八月)15日の夜
- 芋名月 いもめいげつ 陰暦八月十五夜の月のこと
- 既望 きぼう 陰暦16日の夜やその月
- 十六夜 いざよい 陰暦16日の夜やその月
- 立待月 たちまちづき 陰暦17日夜の月
- 居待月 いまちづき 陰暦18日夜の月
- 臥待月 ふしまちづき 陰暦19日夜の月 寝待月
- 更待月 ふけまちづき 陰暦20日夜の月
- 名月 めいげつ 陰暦八月十五夜や九月十三夜の月
- 無月 むげつ 雨などで月が見られないこと
- 上り月 のぼりづき 新月から満ちていく月
- 下り月 くだりづき 満月を過ぎて欠けていく月 降り月
- 二日月 ふつかづき 陰暦八月二日の月
- 三日月 みかづき 陰暦八月三日の月 朏
- 繊月 せんげつ 細く見える月、三日月
- 片割月 かたわれづき 半月のこと
- 有明 ありあけ 陰暦16日以降の月
- 有明の月 空が明るくなっても残っている月
- 残月 ざんげつ 有明の月
- 山の端 やまのは 山の空に触れる部分
- 初雁 はつかり その年初めて渡ってきた雁
- 二季鳥 ふたきどり 雁のこと にきどり
- 白雁 はくがん
- 月影 つきかげ 月の光や照らされた物
- 須磨 すま 源氏物語の須磨の月が連想される
- 蓑虫 みのむし
- 鬼子 おにのこ 蓑虫のこと
- 白菊 しらぎく 白い菊、襲の色目にも
- 野分 のわき、のわけ 二百十日前後に吹く強い風
- 鈴虫 すずむし
- 菊合 きくあわせ 菊と和歌で優劣を競う遊び
- 落ち栗 おちぐり 落ちた栗の実
- 竹生島 ちくぶじま 琵琶湖にある島 謡曲にも
- 窓の月 まどのつき 窓から見る月やその光
- 峰の月 みねのつき 山ぎわに出た月
- 浦の月 うらのつき 海辺の月
- 月の宿 つきのやど 月光がさしこむ家
- 月の光 つきのひかり 月明かり、月影
- 里の月 さとのつき
- 湖月 こげつ 湖水にうつる月
- 嫦娥 じょうが 月の仙女 月の異名
- 月の鏡 つきのかがみ 月を鏡に例えた
- 毬栗 いがぐり いがに包まれた栗
- 武蔵野 むさしの 月やススキで名高い
- 尾花 おばな ススキの花穂
- 朝萩 あさはぎ
- 白萩 しらはぎ 白い花の萩
- 萩の露 はぎのつゆ 萩に降りた露
- 鹿鳴草 しかなぐさ 萩の異名
- 着せ綿 きせわた 菊にかぶせた綿
- 露時雨 つゆしぐれ 一面に露が降りた様子
- 朝露 あさつゆ 朝に降りた露
- 虫時雨 むししぐれ 虫が一斉に鳴く様子
- 山路 やまじ 山の中の道
- 山里 やまざと 山間の村落
- 里神楽 さとかぐら 宮中以外での神楽
- 秋色 しゅうしょく、あきいろ 秋の景色、秋らしい色
- 秋の空 あきのそら 秋の澄んだ空
- 秋の色 あきのいろ 秋らしい風物
- 秋の声 あきのこえ 秋の趣を感じる自然の音
- 秋の水 あきのみず 秋になり澄む水
- 秋の野 あきのの 秋の野原
- 秋暁 しゅうぎょう 秋の夜明け
- 月の雫 つきのしずく 露の異名
- 白露 しらつゆ 白く見える露
- 菊水 きくすい 飲むと不老長寿になる伝説が
- 菊の雫 きくのしずく 菊に降りた露
- 菊慈童 きくじどう 菊の露を飲んで不老不死に 枕慈童
- 不知火 しらぬい 有明海などで見られる光の異常屈折現象
- 砧 きぬた 秋の夜長に砧を打つ音
- 藤袴 ふじばかま 秋の七草の一つ
- 案山子 かかし 田畑から害獣を追い出すために置く
- 鳴子 なるこ 田畑から鳥などを追い出す道具
- 葛の花 くずのはな 葛は秋の七草の一つ
- 葛かずら くずかずら 葛の別名
- 稲穂 いなほ
- 稲舟 いなぶね 稲を運ぶ舟 謡曲にも
- 籬の菊 まがきのきく 陶淵明を連想したりも
- 隠逸花 いんいつか 菊の異名
- 齢草 よわいぐさ 菊の異名
- 翁草 おきなぐさ 菊・松の異名
- 千代見草 ちよみぐさ 菊・松の異名
- 隠君子 いんくんし 菊の異名
- 乙女草 おとめぐさ 菊の異名
- 星見草 ほしみぐさ 菊の異名
- 草の主 くさのあるじ 菊の異名
9月は「月・露・菊」関係の銘が出てくる
現在の9月の頃は陰暦八月の名月の時期ですので、月に関係するものを色々に表現した銘が多いです。
月の呼び方もたくさんあり、異名を「銘」として使うとなかなかオシャレです。
さらに秋によく出てくる言葉と言えば、「露(つゆ)」です。
露は一年中ありますが、基本的に秋に使います。そして儚いものの例えとしても使われます。
朝露、夕露、夜露、初露、上露、下露などなどいろいろ応用が利きますので露は便利です。
さらにさらに、陰暦九月九日は重陽ですので、菊に関する銘が多く登場します。
菊には異名がたくさんありますので、知っていると教養高めな空気(笑)を少しだけ出せます。
【9月の銘】旧暦九月の異名

銘を付けるときには、陰暦九月の異名も参考になります。
そのまま茶杓の銘などにすることもできます。
- 長月 ながつき 夜長月の略という説が
- 夜長月 よながつき
- 菊月 きくづき 菊の盛りの意
- 戌月 じゅつげつ、いぬのつき
- 色取月 いろどりづき 葉が色づくので
- 色染月 いろそめづき
- 紅葉月 もみじづき
- 寝覚月 ねざめづき 夜が長く目が覚めがち
- 小田刈月 おだかりづき
- 青女月 せいじょづき 青女は雪・霜を降らす女神
- 季秋 きしゅう 秋の最後の月
- 晩秋 ばんしゅう、おそあき
- 暮秋 ぼしゅう
- 玄月 げんげつ
- 梢の秋 こずえのあき
- 無射 ぶえき
【9月の銘】二十四節季と七十二候

9月の暦についてみていきます。
暦は銘をつけるときにも役立ちます。そのまま銘にするのもありです。
処暑 しょしょ
処暑は暑さが止んでくる時期です。
- 綿柎開 わたのはなしべひらく 8月23~27日頃
- 天地始粛 てんちはじめてさむし 8月28~9月1日頃
- 禾乃登 こくものすなわちみのる 9月2~7日頃
白露 はくろ
白露は空気が冷たくなり、朝露が多く見られる時期です。9月8日~22日頃。
- 草露白 (くさのつゆしろし) 9月8日~12日頃
- 鶺鴒鳴 (せきれいなく) 9月13日~17日頃
- 玄鳥去 (つばめさる) 9月18日~22日頃
秋分 しゅうぶん
「秋分の日」は昼と夜の長さがほとんど同じになる日です。
二十四節季としての秋分は9月23~10月7日頃のこと。虫たちは冬ごもりの準備を始めます。
- 雷乃収声 (かみなりすなわちこえをおさむ) 9月23日~27日頃
- 蟄虫坏戸 (むしかくれてとをふさぐ) 9月28日~10月2日頃
- 水始涸 (みずはじめてかるる) 10月3日~7日頃
【9月の銘】年中行事・雑節 茶道関係の歳時記

9月の年中行事から銘をつけることもできます。
茶道で良く取り上げられる年中行事や雑節に触れていきます。
季節の行事を知っていれば、突然「ご銘は?」と聞かれたときにもスグに思いつくことができて、非常に役に立ちます。
重陽の節句 ちょうようのせっく
重陽の節句は九月九日です。旧暦の九月九日は菊の盛りの時期ですので、菊の節句とも言われます。
陽の最大の数字の九が重なる日で「重九」とも言われ「長久」に通じるので、めでたいとされます。
荊楚歳時記に九月九日は「菊花の酒を飲む 人をして寿を長からしむという」とあり、古くから中国で長寿を願い多くの行事が行われ、それが日本に伝わってきました。
菊の露による長寿の伝説は菊慈童(枕慈童)の能で有名で、彭祖の話しにつながってます。
平安時代には宮中で重陽の宴(菊花の宴)が行われており、杯に菊花を浮かべた菊酒を飲み長寿を祝い歌を詠んだりしました。
また、重陽の節句に菊の露で肌を濡らすと齢を延ばすと考えられていたので、菊に真綿をかぶせて菊の露を受けさせ、それで肌を撫でるという事が行われました。
この菊の露を受ける”わた”を「着せ綿(きせわた)」と言って、枕草子や紫式部の歌にも記述があります。
庶民ではこの日に栗ご飯を食べたりしたので、重陽の日を栗の節句と言ったりします。
中秋の名月 十五夜
中秋というのは陰暦八月十五日の事です。(秋の真ん中)
ですので、中秋の名月といえば、「陰暦八月十五日の(ほぼ)満月の月」ということになります。
9月に中秋の名月といわれると八月じゃないの?と思ってしまいがちですが、陰暦八月十五日というのは今の暦の9月下旬であることが多いので、現在では十五夜の月は9月にニュースになったりします。
中秋の名月を鑑賞する行事(中秋節)は中国から9世紀頃に伝わってきたそうですので、かなりの歴史があります。
平安時代には貴族たちが舟遊びをしながら、水面に映った月の鑑賞して歌を詠んだりしたために月見の趣向の時には舟が出てくることもあります。
ちなみに八月の十五夜の月見をすると、九月の十三夜(後の月)にも月見をして、名月は2回鑑賞するものと言われます。
これは、一度しか見ない「片見月」は不吉と言われるからだそうです。
片見月は不吉と言われるのはいつから始まったのかわかりませんが、その理由には艶っぽい話があり、なかなか面白いです。
二百十日
二百十日は雑節の一つで、立春から数えて210日目という事です。だいたい9月1日頃。
稲が開花する時期で、台風が多いので農家にとっては厄日ということで警戒されました。
とはいえ、お茶ではあまり出てきません。
秋分の日・秋の彼岸
秋分の日は春分の日と同じように、昼と夜の長さがだいたい同じになる日です。
秋分の日(彼岸の中日)を含め前後3日、つまり合計7日間が秋の彼岸になります。
秋分には太陽が真東から昇り真西に沈むので、西の彼方にあると信じられた「極楽浄土の場所が良くわかる」ということで、阿弥陀如来に往生を願う日想観が特に行われます。

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