10月の茶道でよく使われる「銘」と、お茶とのかかわりの深い行事・暦を勉強して銘に対する理解を深めましょう。
茶杓などの茶道具につけられる銘には年中行事、自然の風物が深く関わっています。
これらは銘だけでなく道具の取り合わせのヒントにすることができますので、歳時記を知っておくと自分に引き出しが増えると思います。
銘を考える時にはぜひ歳時記なんかも気にしてみてください。
下にたくさんの銘を挙げましたが、解説を少し付けていますので参考になればと思います。
銘は茶杓だけではなく、茶入や茶碗さらにはお菓子などにも付いていますので、茶道の稽古のお役に立てればと思います。
季節の銘ではなく無季のカタい銘が知りたい方は禅語や漢詩関連の銘の記事をどうぞ。

【10月の銘】茶杓などに使われる銘

- 秋色 しゅうしょく、あきいろ 秋の景色、秋らしい色
- 柴舟 しばふね 柴木を載せた小舟
- 嵐山 あらしやま 紅葉の名所 らんざん
- 嵐峡 らんきょう 嵐山の峡谷
- 山路 やまじ 山の中の道
- 深山路 みやまじ 深山の中の道
- 勝栗 かちぐり 殻、渋皮を取ったもの 搗栗
- 残月 ざんげつ 明け方に残る月、有明の月
- 弦月 げんげつ 上弦、下弦の月 弓張り月
- 残菊 ざんぎく 重陽を過ぎて咲く菊 初冬の菊
- 菊襲 きくがさね 五衣の配色
- 八重菊 やえぎく 八重咲の菊
- 菊日和 きくびより 菊の花の頃の良い天気
- 菊の露 きくのつゆ 菊の花の露 菊の雫
- 落穂 おちぼ 刈り取り後に落ちた穂
- 龍田川 たつたがわ 紅葉の名所、歌枕
- 龍田姫 たつたひめ 秋を司る神
- 神楽 かぐら 神に祈る歌舞
- 苫屋 とまや 粗末な小屋
- 柴人 しばびと 柴を刈る人、売る人
- 山家 やまが、さんか 山中の家
- 山里 やまざと 山間の村落
- 松虫 まつむし
- 野分 のわけ、のわき 秋から冬の強い風
- 村雲 むらくも むらがり立つ雲 群雲
- 夜寒 よさむ 晩秋の夜の寒さが強くなること
- 金風 きんぷう 秋の風
- 時雨 しぐれ 晩秋から初冬のにわか雨
- 初時雨 はつしぐれ その年最初の時雨
- 露時雨 つゆしぐれ 時雨があったように降りた露
- 秋の野 あきのの 秋の美しい野原
- 秋の山 あきのやま 紅葉で彩られる山
- 後の月 のちのつき 陰暦九月十三夜の月
- 十三夜 じゅうさんや 陰暦九月十三夜(の月)
- 豆名月 まめめいげつ 陰暦九月十三夜の月 栗名月
- 山路の月 やまじのつき 山路から見える月
- 錦秋 きんしゅう 紅葉で美しく彩られる秋
- 初紅葉 はつもみじ 初めて色づく紅葉
- 夕紅葉 ゆうもみじ 夕方の紅葉
- 薄紅葉 うすもみじ 薄く紅葉した木の葉 襲の色目
- 紅葉の賀 もみじのが 紅葉の頃の宴
- 宮城野 みやぎの 秋草、萩の名所 歌枕
- 嵯峨野 さがの 秋草の名所 歌枕
- 小柴垣 こしばがき 低い柴垣 野宮神社を連想
- 吹寄せ ふきよせ 秋の木の実や葉を表現した菓子など
- 秋露 しゅうろ 秋の露
- 群雀 むらすずめ 群れを成している雀
- 武蔵野 むさしの 月やススキの名所
- 野宮 ののみや 野々宮神社 源氏物語を連想
- 稍寒 ややさむ 段々と寒さを感じてくる
- 朝寒 あささむ 朝に寒さを感じてくる
- 暮の秋 くれのあき 秋の終わりごろ
- 秋の暮 あきのくれ 秋の夕暮
- 秋の夜 あきのよ
- 雁渡し かりわたし 雁が来る時期の北風
- 砧 きぬた 砧で打つ音
- 二季鳥 にきどり 雁のこと
- 鬼の子 おにのこ 蓑虫のこと
- 稲架 はさ 刈った稲を干すもの
- 樵路 しょうろ きこりの通る山の小路
- 朝晴 ちょうせい 朝の晴れた空
- 御所柿 ごしょがき 宮中にも献上された柿
- 小男鹿 さおしか オスの鹿
- 松風 まつかぜ 松籟、松濤
- 松籟 しょうらい 松に吹く風 釜の沸く音
- 浦里 うらざと 漁村
- 秋麗 しゅうれい あきうらら 晴れ渡る秋の日
- 秋澄む あきすむ 秋の澄んだ空気
- 秋高し あきたかし 空が澄んで高く感じられる
- 川霧 かわぎり 川に立つ霧
10月は茶道の世界では「名残の月」だと言われます。
”風炉の名残”もしくは”お茶(茶壷の)の名残”という意味で、次に来る11月から部屋の設えを「風炉」を「炉」にして、お茶も茶壷の口切をして新しいお茶にします。
少し肌寒く火が恋しいと感じる季節で、少し侘びた風情が似合うのが10月です。
秋の夕暮れを詠った「三夕の歌」なんて合いそうな季節ですね。
お点前的には10月は中置をする時期というのが特徴的です。
紅葉を実際に見るには少し早いですが、歌や茶の湯は先取りしますのでこの時期から紅葉の銘も出てきたりします。
【10月の銘】旧暦十月 神無月の異名

銘を付けるときには、陰暦十月の異名も参考になります。
そのまま茶杓の銘にすることもできます。
- 神無月 かんなづき
- 神在月 かみありつき
- 神有月 かみありつき
- 神去月 かみさりづき
- 時雨月 しぐれづき
- 初霜月 はつしもづき
- 雷無月 かみなしづき
- 醸成月 かみなしづき
- 鎮祭月 ちんさいづき
- 坤月 こんげつ
- 孟冬 もうとう 初冬
- 陽月 ようげつ 陰が極まり陽を生じる月
- 良月 りょうげつ
- 亥の月 いのつき
- 大月 たいげつ
神無月の ”無” は ”の” という意味で、神の月という意味だそうです。
“出雲に行ってしまって神がいない月”というのは 俗解だそうですが、これは古くから広まっているので、その俗解からいろんな伝承が生まれています。
陰暦10月は亥の月と言われ、旧暦のころは開炉の季節でした。
お茶をしている人であれば、”亥の月亥の日に炉を開く”というのを聞いたことがあると思います。
現在では陰暦十月は11月頃にあたるので、11月に開炉をする事が多いということになります。
【10月の暦】二十四節季と七十二候

10月の暦についてみていきます。銘をつけるときにも暦は役立ちます。
二十四節季などをそのまま銘にするのもアリです。
10月に来る二十四節季は
- 秋分
- 寒露
- 霜降
です。それぞれの二十四節季の中に七十二候が三つずつ入っています。
秋分 しゅうぶん
二十四節季としての秋分は9月23~10月7日頃。秋分の日はだいたい9月22日か23日です。
- 雷乃収声 (かみなりすなわちこえをおさむ) 9月23~27日頃
- 蟄虫坏戸 (むしかくれてとをふさぐ) 9月28日~10月2日頃
- 水始涸 (みずはじめてかるる) 10月3日~7日頃
寒露 かんろ
霜にちかづく、冷たい露。10月8日~22日頃。
- 鴻雁来 (こうがんきたる) 10月8~12日頃
- 菊花開 (きくのはなひらく) 10月13~17日頃
- 蟋蟀在戸 (きりぎりすとにあり) 10月18~22日頃
霜降 そうこう
霜がおりはじめる頃といわれる。10月23日~11月6日頃。
- 霜始降 (しもはじめてふる) 10月23~27日
- 霎時施 (こさめときどきふる) 10月28日~11月1日
- 楓蔦黄 (もみじつたきばむ) 11月2日~11月6日
10月の行事・雑節 茶道関係の歳時記

10月の行事や歳時記を知れば、銘を付けるときの参考になります。
茶道で良く取り上げられる年中行事や雑節を見ていきます。
中置き
10月には中置きと言って、風炉を客付きへずらし畳の真ん中にもってくるというお点前ができます。
火が恋しくなるような季節だから中置きするわけですから、10月でも暑い時期にするのは少し違和感が出ますね。
宇治茶まつり
宇治茶まつりは毎年10月第1日曜に、
- 日本に茶を伝えた栄西禅師
- そのお茶を栂尾で栽培をした明恵上人
- わび茶を大成した利休居士
の三人へ報恩感謝し、宇治茶の繁栄を祈願する行事です。
名水で名高い宇治橋三の間から水を汲み、興聖寺で茶壷の口切と献茶が行われます。
宇治川一帯で茶席が設けられなど様々な催しがあり、茶道をしている方は特に楽しめる行事です。
神在祭 かみありさい
出雲大社では陰暦10月に神迎祭(かみむかえさい)、神在祭、神等去出祭(からさでさい)を行っています。
現在でも旧暦の日付によって行われますので、現在行われるのは今の暦の11月です。
神議り(かみはかり、かむはかり)
陰暦10月11日から17日まで日本中の神々が出雲大社に集まり、人の目には見えない男女の縁結びや人生の諸般を話し合うといわれます。
十三夜 (のちの月)
十三夜は十三日の夜、特に”陰暦九月十三夜の月”のことで、八月十五夜に対して”後の月”とも言われます。
十五夜の月を芋名月と言ったりしますが、十三夜の月は豆名月や栗名月と言われます。
十三夜の観月は平安時代、醍醐天皇の時に月見の宴が開かれた事が記録に残っています。
衣替え
着物は10月から袷の着物にする地域が多いです。
衣替えは更衣といって宮中で年に2回、陰暦四月と陰暦十月に行われていました。
陰暦でも十月に冬服に衣替えをしましたが、現在の暦でも10月に衣替えをします。

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