5月によく使用される銘と、茶道との関わりの深い行事を知って、銘に対する理解を深めていきます。
茶杓などにつけられる銘には植物や年中行事が深く関わっています。
銘に関する簡単な解説もつけたので、ぜひ参考にしていただければと思います。
季節の銘ではなく無季のカタい銘が知りたい方は禅語や漢詩関連の銘の記事をどうぞ。
5月によく使われる銘
- 牛若 うしわか 牛若丸は源義経の幼名
- 落し文 おとしぶみ 虫の名前から
- 冠 かんむり 出世を願って
- 粽 ちまき 5日に屈原へ手向けた
- 長刀 なぎなた
- 弁慶 べんけい
- 老鶯 ろうおう 夏になっても鳴く鶯
- 飾太刀 かざりたち 貴族の太刀
- 武者揃 むしゃぞろえ
- 競馬 くらべうま 上賀茂神社で
- 菖蒲太刀 しょうぶだち 子供の菖蒲打ちに
- 清流 せいりゅう
- 清泉 せいせん
- 清風 せいふう
- 青嵐 せいらん 青葉の頃に吹く強い風
- 青山 せいざん
- 緑水 りょくすい
- 青苔 せいたい
- 五月晴 さつきばれ 梅雨の晴れ間
- 五月闇 さつきやみ
- 五月雨 さみだれ さつきあめ 梅雨のこと
- 蚕時雨 こしぐれ 蚕が桑を食べる音
- 岩躑躅 いわつつじ 岩のほとりのツツジ
- 時鳥 ほととぎす 夏をつげる鳥
- 登鯉 のぼりごい 鯉が滝を登りきると竜になる
- 青楓 あおかえで
- 早苗 さなえ
- 更衣 ころもがえ 陰暦4月に更衣
- 青簾 あおすだれ 更衣とともに
- 薫風 くんぷう
- 花橘 はなたちばな 襲の色目にも
- 八十八夜 はちじゅうはちや 立春から88日目
- 茶摘み ちゃつみ
- 藤波 ふじなみ 藤房が風で揺れる様子
- 山の井 やまのい 山中の湧水が出るところ
- 卯の花 うのはな
- 卯花墻 うのはながき
- 真清水 ましみず 清水の美称
- 八ツ橋 やつはし 三河の八ツ橋・杜若が有名
- 杜若 かきつばた 能にも
- 苔清水 こけしみず
- 茶摘籠 ちゃつみかご
- 早乙女 さおとめ 田植えをする少女
- 呼子鳥 よぶこどり カッコウや時鳥などをさす
- 緑陰 りょくいん
- 涼風 りょうふう
- 鵜飼 うかい 5月に鵜飼開き
- 若鮎 わかあゆ
- 若竹 わかたけ 筍の時期
- 若葉 わかば 木々の若葉が美しい
- 夏山 なつやま
五月はやはり端午の節句ですので、男の子の節句らしく「尚武」に通じる銘が多いと思います。
また5月は気候も良く茶摘みの季節で、かなり暖かいので水や風が付く銘も多いです。
ですが、昔の五月は梅雨の時期ですので、五月晴れ(梅雨の時期の晴れ間)なんていう言葉もあります。
ややこしいですね。
杜若(かきつばた)はいかにも五月の花という感じです。
杜若といえば「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」の句を思い出します。
それぞれ最初の文字が「かきつはた」の折句になっていて、和歌っていうのはスゴイなと思ったりしますね。
5月の銘 旧暦五月の異名
陰暦(旧暦)五月の異名です。
今でいう6月あたりの時期なので、名前にちょっと違和感もあります。
- 五色月 いろいろづき
- 稲苗月 いななえづき
- 雨月 うげつ
- 啓月 けいげつ
- 皐月 さつき 五月、早月
- 早苗月 さなえづき
- 五月雨月 さみだれづき
- 午月 ごげつ、うまのつき
- 建午月 けんごげつ
- 賤間月 しずまづき
- 田草月 たくさづき
- 橘月 たちばなづき
- 月不見月 つきみぬつき
- 仲夏 ちゅうか
- 悪月 あくげつ
- 梅月 ばいげつ 陰暦4,5月
- 梅色月 うめのいろづき
- 吹雪月 ふぶきづき
- 浴蘭月 よくらんげつ
浴蘭月の蘭はいまイメージする蘭ではなく、菖蒲など香りの強い(厄を払う効果)植物だそうです。
また陰暦五月は田植えの季節ということで田植えに関連した名前も見受けられます。
月不見月というのは梅雨の雨雲で月が見えないということだそうです。現在では5月はまだ梅雨ではないので少し違和感があったりします。
【5月の銘】二十四節季と七十二候 雑節・行事
暦や行事は銘を付けるときにとても参考になります。
5月の暦と行事について少し詳しくなりましょう。
5月の二十四節季と七十二候
- 牡丹華 ぼたんはなさく 4月30~5月4日頃
立夏 りっか 5月5~19日頃
- 蛙始鳴 かわずはじめてなく 5月5~9日頃
- 蚯蚓出 みみずいずる 5月10~14日頃
- 竹笋生 たけのこしょうず 5月15~19日頃
小満 しょうまん 5月20~6月4日頃
- 蚕起食桑 かいこおきてくわをはむ 5月20~25日頃
- 紅花栄 べにばなさかう 5月26~30日頃
- 麦秋至 むぎのときいたる 5月31~6月4日頃
雑節・茶道で出てくる5月の行事・歳時記
初風炉
茶道では五月に冬期の炉から替わって風炉の季節になります。
風炉に変わった最初の席を初風炉と言います。
茶の湯は元々は風炉でやっていました。
茶道の元々の形なので初風炉は重い意味合いがあり、格調高い室礼をしたりします。
夏切茶(夏口切)
通常、口切は新茶を茶壷で半年寝かせた11月に行われますが、新茶で取れた茶葉をすぐに初風炉で味わうのが夏口切です。
夏口切は今はあまり行われていませんが、新茶を使った抹茶をこの時期に売っているお茶屋さんもあるので、飲んでみると新鮮な味わいに驚くかもしれません。
ちなみに八十八夜の前十日間に摘んだものは初昔、後の十日間に摘んだものを後昔とつけるようです。
端午の節句
かなり古い時期から5月5日に行われていますが、元は五月最初の午の日という説も。
陰暦五月は高温多湿で疫病や害虫が多く悪月とされたので、厄を払うために様々な行事があります。
いまでも鍾馗の絵や、菖蒲の香などにより無病息災を祈ります。
5月5日に粽を食べるのは、汨羅(べきら)江へ身を投げた屈原を供養のするため、蛟龍に盗られないで食物を届けられるように粽にしたのが始まりといわれます。
身を投げた屈原を助けるため競うように民が舟を出したことが競漕の元になり、日本に渡って宮中でのくらべ馬になったという話があったりします。
他にも5日は、宮中や公家の家では中に薫薬を入れた薬玉を作って簾などに吊るし、邪気を払い寿命が延びるのを願ったそうです。
葵祭 (賀茂祭)
京都三大祭の一つ。上賀茂神社と下鴨神社のお祭。元々は陰暦四月にやっていた祭礼。
5月15日は「路頭の儀」で平安装束を身に着けた行列が京都市内を歩きます。
人間はもちろん牛や馬まで、全員が双葉葵を身に着けているために葵祭の名前があります。
葵祭の御禊の日には葵の上と六条御息所との「車争い」があったという源氏物語のエピソードも有名です。
ちなみに葵は「あふひ」と書き「逢ふ日」の掛詞です。
ロマンチックな感じがしませんか?
鴨川をどり
5月に先斗町歌舞練場で行われる春の踊り。
明治5年の第1回京都博覧会から休演をはさみながらも続いています。
鵜飼開き
岐阜の長良川の鵜飼いは1300年の歴史があるそうです。
鵜飼は能(舞台は山梨県)にも取り上げられ、茶会のテーマとしても定番です。
5/11の鵜飼開きの前には鵜飼開き協賛茶会が開かれます。
遠州忌
小堀遠州は江戸初期の大名で作事奉行として建築,作庭を行った事でも有名です。
お茶では当時の天下一の茶人と言われ、書、歌、道具の目利きなどマルチに才能を発揮したことが知られます。
毎年5月の第二土曜日に大徳寺孤篷庵で遠州流宗家による供茶式が行われ、それに伴い釜が掛けられます。
遠州は正保四年二月六日歿
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