茶道をすると必ず登場する裂地についての話しです。
裂地というのは要するに布のことなんですが、掛軸や茶入の仕覆、出袱紗、古帛紗など多くのところで使われているのを目にすることができます。
裂地の名前の基本的な知識を持っておくだけでも、理解度は格段に高くなります。
ぜひここで簡単に素早く裂地の基本のいろはを知ってしまいましょう。
裂地というのは日常生活ではあまりなじみが無い物ですが、着物の柄の理解にもつながったりしますので、基本を覚えておくと応用が利くと思います。
裂地とはなにか?
読み方からして何と読んだら良いのかと感じますが、「きれじ」と読みます。
お茶の道具の中によく登場してくるもので、茶入の仕覆(しふく)や掛物の表装なんかに使用されています。
掛軸の表装というのは、掛け軸に何やら ”布が貼ってあって装飾”してありますが、そうです、あの布のことです。
裂地には絹(きぬ)織物が多いのですが、更紗(さらさ)などの綿のものもあります。
出帛紗(だしぶくさ)や古帛紗(こぶくさ)にも裂地が使用されています。
ところで裂地といって茶道を習っている人が直ぐに思いつくのは、いわゆる名物裂の名称ではないでしょうか。
- 珠光緞子とか
- 利休梅緞子とか
まずは名前になじみのある「名物裂」について説明したいと思います。
ちなみに下の古帛紗は珠光緞子(しゅこうどんす)という裂地で出来ています。
三本の指(爪)の龍と唐草文が織り出されている緞子で出来ています。
茶道をしている人は一つは持っておきたい裂地です。
名物裂について
名物裂というのは元々は名物道具に添った裂ということです。
今日、新品で名物裂と称して売られているものは、もちろん名物裂を復元したものです。
本物は時代物でかなり古いものになりますから、その辺で売っているものでは無いです。
さて、名物裂に付いている名前の「珠光緞子」なんていう名前がありますが、この名前からではどういう裂なのか想像できませんね。
こういった名前から想像できない裂地は、馴染みがないと覚えるのは大変です。
裂地には全てこのようなシンプルな名前が付いていると思いがちですが、実はそんなことはありません。
名物裂(ものの本には200種程とあったような気が…)といわれる物は数多くある裂地の中の一部ですので、全ての裂地に人の名前や伝来等からくる名前が付いているわけではありません。
ちなみに「珠光緞子」のような名前は通称という感じの名前なんです。
そして、通称以外にも実はちゃんと名前があるのです。
裂地の名前の3つの要素
裂地の染色工芸品としての正式な名前は
- 「地色」
- 「文様」
- 「織り方」
を組み合わせたものになるそうです。
つまり、織部緞子などの名前の付いている裂以外でも「地色、文様、織り方」がわかれば
自分で裂地の名前を見つけることが可能になります。
もうお茶の先生に「ぁあのぅ、こ、この裂地はなんていう名前でしょうか?」
なんて、恐る恐る聞かなくて大丈夫になります(笑)。
ちなみに、よく目にする織部緞子は先ほどの組み合わせで名前を付けると
紺地流水梅鉢文緞子となります。
- 地色は紺だから「紺地」
- 流水と梅鉢の文様があるから「流水梅鉢文」
- 織り方は緞子だから最後に「緞子」とつけます。
これを連続させると
紺地流水梅鉢文緞子 (こんじりゅうすいうめばちもんどんす) となりますね。
はい、こうやって考えると実はメチャクチャ簡単に裂地の名称が判明します。
織部緞子なんてザックリした名前よりもむしろこっちの方が正式名称です。
もちろん地色が違うものも売ってたりしますけど。。。
でも、名前の探し方は思ったより簡単だと思いませんか?
ということで、裂地を拝見する時にしてもらいたいのは、
- どういう地色で
- 文様は何で
- 織り方は何なのか
ということを考えて拝見するということです。
そうすると、裂に対する理解が深まりますし、具体的な名前として自分の中に残ります。
これなら他の裂との共通点に気付いたり、覚えやすくなるはずですよね。
龍の文様つながりで珠光緞子と紹鴎緞子は共通しているとか、梅文つながりで利休梅緞子と織部緞子は共通しているとか、そんな感じですね。
ちなみに、美術館で裂の名称を書いて展示をしてくれているありがたい美術館は畠山記念館さんです。
掛軸の展示のときなどに一文字、中廻し、上下の裂地が書いてあるので、ぜひとも確認してみてください。
- 裂地に詳しくおススメな本を紹介しておきます。淡交社から出ている裂地の図鑑みたいな本です。やや高価ですが、カラー写真で沢山の裂地が載っているので非常に見やすくて勉強になります。徳斎の帛紗をお店に注文するときなどに非常に便利です、茶道具店でも使っている図鑑なので。
【裂地の地色】 裂地の名前を知る
さて裂地の名前を考えるのに、まずは裂地の地色(じいろ)を言えるようになるのが1歩目です。
色なので、もちろん無数にあります。
ですが「何とな~く」で良いので、よく出てくる色を覚えておくと非常に便利です。
よくあるのは
- 「萌黄」(もえぎ)
- 「紺」
- 「白茶」(しらちゃ)
- 「紫」
- 「臙脂(えんじ)」
- 「茶」
このあたりは名前からだいたい色が想像できますね。
これ以外にも、名前からあんまり色が想像出来ない様な
みたいな色もけっこう出てきます。
色をいわゆる和色の名前で覚えていたりすると、なんかオシャレで知的に見えますよね。
日本には千年も昔から襲(かさね)の色目といって、おしゃれな「色の組み合わせ」なんかもありますので、組み合わせにも興味があれば調べてみてください。
大昔から女性のオシャレ好きには命かけてる感じがしますね。
お菓子の銘にも襲の色目の組み合わせの名前が使われて、そこに対応する色の組み合わせだったりすると、御菓子屋さんの教養スゴイな~と感じちゃいます。
話がそれましたが、先程出てきた織部緞子の例で言うと、地色は「紺地」という事になります。
やっぱりメチャクチャ簡単ですね。
ということで、地色は簡単です。見たまんまの色を言えればOKなのですから。
時代の裂になると、褪せてしまって元の色がよくわからないものがありますので、注意が必要ではあります。
裂地の文様について
つぎは、茶道で出てくる裂地の文様について、詳しくなってしまいましょう。
今まで見たことのある文様を少し整理して、理解を深めることができます。
裂地の文様といわれると難しそうですが、着物の柄で考えていただけると親しみが湧くと思います。
花とか、動物とか、お持ちの着物にも、なにやらよくわからない文様があるかと思います。
そういった着物の柄には「何が描いてあるんだろうか?」ともう一度よく見てみてください。
わかっていたようでも
「これ何の文様だろうか??」
というものが無いでしょうか。
文様の知識をつけるには、何の文様だろう?と考える事が大切です。
文様についてわかりやすく書いてあるおススメ書籍も載せときます。誰でも理解できるように書かれてます。
いわゆる茶道の裂地の文様と着物の柄には共通するものが結構たくさんあります。
楽しみながら調べて、覚えてしまいましょう。
さて具体的な文様についてですが、ざっくり分けて文様には
- 吉祥文様
- 動物文様
- 植物文様
- 自然の様子を表した文様
- 幾何学文様
が、あります。
それぞれ独立しているわけではなく、”吉祥文様と動物文様に当てはまる”みたいなものが多くあります。
簡単に解説していきます。
吉祥文様
吉祥文様(きっしょうもんよう)とは要するにおめでたい文様です。
ぱっと見、「なんでこんな変な模様が描いてあるの?」
と思ってしまうような、よくわからないものが沢山ありますが、それぞれ意味を聞いたりすると「なるほどね」と思ったりします。
たとえば、「宝尽文」(たからづくしもん)というものがあります。
これは吉祥文がたくさん集まっていますよ、という文様です。
「~尽くし」という言い方はお茶ではたまに出てきますので覚えておきましょう。
宝尽文の中でよく見るものは宝珠、霊芝、宝剣、宝巻、丁字、七宝あたりでしょうか。
実はこれらの文様は「宗薫緞子(そうくんどんす)」(↑上の画像)という裂に描かれています。
文様それぞれに意味があって、それを織り込むことによって、
「良いことが起こりますよう」にとか、「悪いことが避けられますように」
という願いが込められています。
色んな文様の意味を調べると、意外な意味が込められていたりします。
昔の日本人はかなり信心深かったんだなと感じます。
予想もしないような意味があったりするのはとても興味深いです。
ネットは便利なので、一般的な文様なら結構すぐに情報が出てきますので、調べてみるのも良いと思います。
さらに詳しく知識をつけたい時はやっぱり書籍の方が良いです。
動物文様
動物文様は説明不要かと思いますが、動物を描いた文様のことですね。
でも実在しない動物も含まれていますので、すこし注意が必要です。
たとえば、鳳凰(ほうおう)、麒麟(きりん)、龍なんかがそうです。
これらは吉祥文様でもありますね。
鳳凰は「天下をよく治める聖王が出て、天下泰平になると現れる」と言われているそうです。
なんかおもしろいですよね。
また、龍にも色んな種類の龍がいて、「そんな龍いるの!?」って思うようなこともあり非常に奥が深いものがあります。
この辺の想像上の生きものは、ラノベ好きの人は詳しそうですね。
他に
- 鹿
- 鳥
- 魚
- 羊
- 兎
などなど沢山の動物が出てきますので、よく観察してみてください。
意外な動物がいるかもしれません。
植物文様
次は植物文様です。
これも説明不要ですが植物が描かれているものです。
これにも実在しない植物が出てきます。
植物文様として、とにかくたくさん登場するのは
牡丹(ぼたん)ですね。
牡丹は花の王ということですので、とにかく頻繁に出てきます。
牡丹の文様のパターンを知っておくと、多くはスグに「牡丹だ!」と判ると思います。
もう一つ、これまた頻出なのが
唐草(からくさ)です。
これも本当によ~く出てきます。
草花の文様があるときには唐草文が一緒に織り出されていることが多いです。
唐草には繁栄の意味があって、実在の草花では無いようです。
唐草の起源は古くて、遥か西のシルクロードの起源の方にも似たような文様がありますので調べると面白いと思います。
他には
- 梅
- 笹
- 桐
あたりが、よく出てきます。
ちなみに、裂地を見ていて「植物なのはわかるけど、なんだか良くわからない花が描かれている」という場合は
- 牡丹
- 唐花
- 稜華
あたりを疑ってみると良いと思います。
自然の様子を表した 文様
動物でも植物でもない、自然の風景にあるものってことです。
- 波
- 水
- 雲
あたりがそうです。
青海波文(せいがいはもん)とか、流水文(りゅうすいもん)と呼ばれたりする文様を聞いたことがあるかもしれませんが、自然の風景を文様にしたものです。
これらはよく、裂や着物の柄の地文に織りだされているのを見ることができますね。
青海波文は天下泰平、平穏な生活への願いが込められた文様とか言われたりします。
Wifiの電波の文様ではありません(笑)。
こんなところにまで意味を込めていて、興味深いものがありますね。
幾何学 文様
幾何学文様と言うのは
- 丸
- 三角
- 四角
- 六角
- 八角
などの模様が連続して織りだされているものです。
蜀江錦(しょっこうきん、にしき)がわかりやすい例ですね。
千年以上前からこういったデザインがあるのか~。すごいな~と感心します。
幾何学文様の裂地は龍村(美術織物)さんでよく見かけることが多い気がします。
値段も手ごろでおススメです。
人によって、好きな幾何学文と嫌いな幾何学文はけっこうハッキリわかれたりしておもしろいです。
さて、文様についてはこのあたりで終わりにして、つぎは織り方についてです。
裂地の織り方
最後は「地色」「文様」「織り方」のうちの最後の織り方について。
裂地でよく出てくるのは
- 「金襴(きんらん)」
- 「緞子(どんす)」
- 「間道(かんとう)」
- 「錦(にしき)」
- 「モール」
- 「紹巴(しょうは)」
あたりかと思いますが、織については難しいので細かいことは言わず基本的な解説を少しだけ。
織り方についての細かなしっかりとした説明はしません(いや、できません)。
金襴と銀襴 きんらん ぎんらん
金箔糸を使って文様を織り出したものを金襴といいます。
ちなみに、地が金箔糸で埋め尽くされている金襴を金地金襴といいます。
そして、金箔糸ではなく銀箔の糸ですと、銀襴になります。
早い話が、金糸で織られているなと思ったら、
「○○金襴って名前になるんだな!」
と思ってください。
じゃあ、銀糸なら?
そう、「○○銀欄」になります。
古い裂だと金が剥落していたり、銀が変色して黒くなって銀に見えなかったりするものがありますので、注意が必要ですね。
緞子 どんす
緞子とは、同色の経糸(たていと)、緯糸(ぬきいと)で地を繻子織、文様は地の裏組織を使って表している織物です。
なんのこっちゃ??という感じですね(笑)。
緞子には色んな繻子組織の織り方があったり、経、緯糸が色が違ったりと色々あるようです。
厳密にコレ!というのは織物を結構勉強していないと難しいので、手触りの良い絹の織物で、かつ紹巴でも、金襴でも、間道でも、モールでも無い裂を緞子だと思ってください。
だいたいあってます(笑)。
「ザックリ過ぎやしないかい?」という声がどこかでするような…(笑)。
純子や段子とも書きますが、読みは全部「どんす」です。
間道 (かんとう、かんどう)
縞や格子縞に織られているものを間道だと思ってもらったら良いと思います。
読みは同じ「かんとう」ですが、広東、漢東、漢島、漢渡などの字を当てることもあるようです。
メジャーな間道がいくつかあるので、よく出てくる間道を覚えておくと
「ぁあ~、これ間道だ」
って判るようになったりします。
また、真田(さなだ)といわれる物が織り込んであったりするものもあります。
上の画像の吉野間道の上下に真田紐みたいな文様になってるヤツありますよね?それです。
錦 (にしき)
複数の色糸で文様が織りだされているものです。
詳しくは経錦と緯錦があるそうです。
すぐに判る特徴としては裂が厚いです。わりとどっしりな感じ。
わかりにくいですかね(笑)、スマミマセン。
メジャーな裂は「御軾鳳凰文錦」「有栖川錦」なんかがあります。
龍村美術織物さんが得意そうな裂ですね。
毛織 モール
金モールと銀モールがあります。
絹糸に金線が巻きつけてあって、それで織ったものを金モールといいます。
銀モールは金の部分が、銀線っていうことになります。
金襴と違うの?って言う声が聞こえて来そうですが、細かいとこをよく見るとわかりますよ。
とても色んな種類がありますんで、なんか珍しい感じがするなぁと思ったらモールを疑ってみるのも吉。
モールは毛織、莫臥児、毛宇回、回回織などの字を当てたりするそうです。
ちなみにムガール王朝のムガールがなまってモールになったと言われているとか。
紹巴 しょうは
山形状の組織地紋を持っていて、強い撚りのかかった糸を使っている場合が多いそうです。
紹巴は「蜀紦」、「焦芭」などとも書きます。
紹巴はパっと見、かなりわかりやすいです。
組織を見るとギザギザ(語彙力…)の地紋が出てます。
あと、すごく柔らかい裂です、触ると。
クタッとしてます。
上の画像の中にギザギザした地紋が見えますかね?これが確認できたら紹巴だと思ってください。
ということで、「織り方」についての説明はこれで終了です。
織り方についてはザックリとした説明でしたが、参考にはなるかと…思います。
古い裂地には気をつけて!時代物は要注意
裂には他に、掛け軸の「上下(天地)」、「一文字」の部分などによく使われるものなどがあり、
海気、風通、絓、魚子、支那パー、印金、金紗、羅、絽、金羅、などなど
色んな種類の裂がありますが、興味のある方はぜひ調べてみてください。
実物を見ながら勉強できると一番良いので、ぜひ畠山記念館で名称を確認しながら鑑賞してみてください。
少しずつ解ってくると楽しいですよ。
裂を見たときには、何の模様なんだろうかとか、色々疑問に思ってもらうのも良いと思います。
そして、最後に重要な注意点です。
名物裂というものはほとんどが古い舶載品です。
かなり昔に、船で命がけで運んできたような貴重品です。
「極古渡~新渡」と言われるような物があり、鎌倉~江戸中期頃までの古いものがあります。
つまり本物の名物裂というのはとてつもなく貴重なものだという事です。
本物の名物裂は簡単には手に入りません。
今、普通に売っているのは名物裂を復元したものなのです。
そこのところ、一応知っておいた方が良いと思います。
そして、時代物の裂の扱いにはホントに気をつけてください!
触るだけでパラパラパラ~って崩れるように無くなってしまうようなものもあります。
マジでヤバいくらい、もろいです。
壊したらシャレになりません。
古い裂だなと思ったら、触らないのが無難ですので覚えておいてください。
私なら一切触りません!
ということで、今回は 裂地(きれじ)の名称についての基本 茶道でよく出てくる布のはなし という話題でした。
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コメント
はじめまして。お稽古を始め、問答するのが精一杯でしたが、ここで裂地のいろはを読み、歴史的背景や和色などを知るのが楽しくなりました。どうもありがとうございます。
コメントありがとうございます。問答のときの裂地って困りますよね。
お茶は色々難しそうなことが多いですが一緒に頑張りましょう。