今回は茶道の掛物でも出てくる四愛についてです。
四愛というのは菊・蓮・梅・蘭の4つの植物のことです。
それぞれの植物を愛した文人・君子がいますよ、という事で四愛という名前になっています。
「陶潜は菊を愛し、周茂叔は蓮を愛し、林逋は梅を愛し、黄魯直は蘭を愛す」
という、中国元時代の詩の四大家の一人”虞集”の四愛題詠序からの言葉です。
四君子と同様に、四愛は東洋画の主要な画題になっており、今までに見たことのある方も多いと思います。
さて、四愛は「この植物を愛したのはこの文人だ」というのを知っておくと良いと思います。
- 菊 陶淵明(陶潜)
- 蓮 周茂叔(周敦頤)
- 梅 林和靖(林逋)
- 蘭 黄庭堅(黄魯直)
ちなみに四君子との植物の違いは
- 四君子 菊・竹・梅・蘭
- 四愛 菊・蓮・梅・蘭
という感じなので、四君子の竹が、四愛では蓮になっているところが違う点ですね。
四愛は お寺の屏風やら襖絵なんかで描いてあったりしますが、知らないと見逃しがちです。
「植物とかが書いてあるようだけど、何やら煤だらけの古い絵だな~よくわからんな~」
って思って襖なんて素通りしてしまいそうですが、何が描かれていて、人物は誰なのかが判っていればキチンと記憶に留めることも出来るんじゃないかと。
四愛の「菊」 陶淵明
陶 淵明(とうえんめい 陶潜とうせん)365~427
菊は四君子、三香にも含まれる植物で、陶淵明に愛されたといわれます。
陶淵明は名前だけなら誰でも聞いたことのあるような超有名人ですね。
東晋時代から宋(南北朝の南朝の)時代の人です。日本では古墳時代くらい。
今回の四愛の4人の中では陶淵明だけ飛びぬけて時代が古い人ですね。
五柳先生、靖節先生と呼ばれたりします。
役人生活を何度かしたのち41歳で辞めて農耕生活をはじめました。
絵の中では陶淵明は菊や柳、琴(弦が無かったりする)と一緒に自然になじんだ感じで描かれます。
采菊東籬下 菊を採る東籬のもと
悠然見南山 悠然として南山を見る
という陶淵明の詩の一部が菊の時期の茶席でよく見ることができます。
「飲酒」という詩なので、竹垣の菊を採って酔ってボケーっと(笑)遠くを見ているような絵があったら、ほぼ陶淵明先生ですね。
陶淵明は後に隠逸詩人なんて呼ばれたりするようです。
ちなみに隠逸花といえば菊の事です(愛蓮説より)。
隠逸は世間から離れて隠れ住んでいるということです。
その香り(徳)で世間から離れ、隠れた所にいてもすぐに判るという事が、君子と菊に共通するということでしょうね。
四愛の「蓮」 周茂叔
周 敦頤しゅうとんい (周茂叔しゅうもしゅく) 1017~1073
蓮は泥の中からでも綺麗な花を咲かせることから、清く高潔な人の象徴だったりします。
蓮は周茂叔に愛されたことで知られています。
周茂叔は北宋時代の学者で日本では平安時代の人です。
地方の役人を歴任した後、晩年は廬山の蓮花峰の麓に住み蓮を植えて愛しました。
蓮と周茂叔といえば愛蓮説が有名で、
予独愛蓮之出淤泥而不染
濯清漣而不妖
中通外直 不蔓不枝
香遠益清 亭亭浄植
可遠観而不可褻翫焉
という漢詩があります。
なんだか難しいですが、蓮の良い所を色々と挙げて「遠くから見るだけで、玩ぶことができないような蓮が大好き」って感じの事が書いてあります。
周茂叔は絵の中ではたいてい舟に乗っているか、欄干にもたれて蓮を見ているっていう姿が描かれます。
お茶の炭手前でつかう染付の香合に「周茂叔香合」というがありますが、これには欄干にもたれている人物がなにやら水面の蓮らしき物を眺めている姿が描かれています。
四愛の「梅」 林和靖
林 逋 りんぽ(林和靖 りんなせい) 967~1028
梅は四君子、三清(歳寒三友)の中の一つでもあり、東洋画題で良く登場します。
林和靖は北宋時代の人で、日本でいうと平安時代頃の人です。
詩が得意で一生仕えることなく都会にも出ず梅を愛し、西湖のあたりに鶴と共に暮らしていたということです。
今で考えるとニートみたいですけど、その時の皇帝からも目を掛けられていたみたいですし、死後皇帝から諡(おくりな)までされて林和靖先生ってなるんですから、むしろセレブリティですね。
梅花高士と言ったりもして、同釈人物画の定番の人です。
疎影 横斜 水 清浅
暗香 浮動 月 黄昏
そえい おうしゃ みず せんせん
あんこう ふどう つき こうこん
という、梅を詠んだ詩があります。
「でも、どこにも梅なんて書かれてないよね?」と思いますけど、疎影が梅の異名なんだそうです。
暗香というのも梅のことでそれぞれ”見た目”と”香り”で梅を表現しています。
梅を詠んだ詩では最高の物だそうですので、暗記しておいても損はありません。
個人的には「オシャレ過ぎるニート(ちょっとちがうけど)のオッチャンだな」って思いました。
この句から梅月棗という裏千家さんの好の棗がありますね。
絵画の中では鶴と梅、それから童子が一緒に書かれていることが多いかと思います。
オッチャン(失礼)が梅を見ながら子供、鶴と一緒にいたら、まず林和靖先生ですね。
四愛の「蘭」 黄庭堅
黄 庭堅 こうていけん(黄山谷こうさんこく、黄魯直こうろちょく)1045~1105
蘭は黄山谷が愛した植物とされます。
蘭は四君子、四逸、五清の中にも含まれ、やはり文人画ではおなじみの植物です。
黄山谷は北宋時代の人で、書家として北宋の四大家の一人に数えられます。
日本では平安時代頃の人という事になります。
蘇軾の門人で書・詩人として宋時代を代表する人物ですので、書道の臨書をする人にはおなじみかもしれません。
かなりのエリート層に上りましたが、生きている間はけっこう不遇で地方へ飛ばされたり、挙句には流刑になったりで、結局そのまま没しました。
南宋時代には名誉回復され諡号を送られています。豫章先生と呼ばれたりすることもあるようです。
ということで、四愛の植物とそれを愛した文人について見てきました。
茶道具などの鑑賞をするときに植物が描かれていたら何が描いてあるのか、ぜひ興味を持ってみてください。
さらに、一緒に描かれた人物もわかれば、より興味深くなると思います。
以上、「四愛とは 菊・蓮・梅・蘭を愛した中国文人」という話でした。
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